あのコの心は綺麗です
文化に歴史があるのなら
1人の人間にも歴史がある
あれは高校2年の2月14日
いつものように半笑いで授業を受けているが
みんな多少うかれている
そりゃそうだ
今日はバレンタインデー
女子が好きな男子にチョコを渡す日であり
2人までならレイプOKな日なのだから
さかのぼる事
10ヶ月前の春
当時
彼女が居なかったオレにも好きな人くらいはいた
名前は美香
人前で屁をブッこいちゃう様な明るい性格で
友達とホクロが多く
目の奥は一切笑っていないけどいつも笑顔で
ほっぺたにアクセントでつけられている★のシール
唇から笑うと見えるシルバートゥース
1度も染めたこともないような
艶やかで黒光りしている肩まで伸びたアンダーヘアー
全てがライク
全てがラブだった
最初の出会いから印象的なインパクト
2年生になってすぐの話
友達と笑顔で話してる美香に唇を奪われ
人類で初めての一目惚れ
オレの中で心とハートの2つが暴れまわった
それから何度となく
レイプをしようとチャンスをうかがっていたが
何もできないまま1学期が終わった
夏休み
オレは友達のゆうじと遊ぶために
飯能から自家用JALでロスへ向かった
ロスに着きゆうじに電話すると
『今起きたばっかりだからちょっと待ってて!ウェイト!わかる?ウェイトだよ!』
コンクリートジャングルL,Aの暑さに身を包まれながら
仕方なくオレは半全裸でゆうじを待っていた
『ヴァン君?ヴァン君だよね?』
後ろの方から声がした
誰かと思いオレは回れ右で振り返る
なんと声の主はあの美香だった
『やっぱりヴァン君だ!そのアフロ、絶対そーだと思ったよ!』
動揺した
今まで話した事もなかったし
何よりオレはアフロではなかったからだ
とりあえず動揺を悟られないように平静を装った
オレ『おお!美香ちゃんじゃん!こんな所で何やってるの?オレは見ての通り、半全裸で小鳥を集めようとしてるけど』
美香『私はパパと待ち合わせ!なかなか来なくて暇だったんだー。』
オレ『パパってまさか・・・』
美香『そう、お金くれる方のパパだよ!でも良かった、ヴァン君がポリスメンに掘られる前に話せて!』
さらに動揺
オレ、ポリスにヤラれんの?
もうこの先の事は覚えていないが
メアドと唯一履いてた靴下の交換と
ケツに違和感を覚えてた事は確かだった
その日以来
オレと美香はたくさんメールをした
無言電話も数え切れないほどした
夏休みは美香と一緒に企画して
友達を集めて燃やした
しし座流星群が見れると聞いて2人で夜中に山に登ったが
その日は曇りでまったく星が見えなくて
笑いあったり、正直殴りあったりした
使っている駅が一緒ということが判明して
コンビでキセルをするようになった
体育祭の出入りのために
火炎ビンを2人で作った
文化祭の買い出しも2人で行って
小銭をくすねた
冬休みには夜中2人で橋の下に行って
段ボールやビニールシートを燃やし焚き火を楽しんだ
アルミホイルで包まれたサツマイモを火の中に放り込んだ
焼けた1本のサツマイモを2人で奪い合った
万引きも2人のアイコンタクトで次々と成功した
年明けはオレとゆうじ
美香と友達の彩子
4人で賽銭ドロを行った
日に日に美香への思いは強まっていった
そして話はバレンタインデーに戻る
うかれている雰囲気とは別に
いつもと変わらない美香がそこにはいた
美香は誰か好きな人がいるのか
美香は誰にチョコをあげるのか
オレもうかれている教室の一部になっていた
友達の彩子が美香に訪ねる
『美香は誰にチョコあげるのー??』
美香は答える
美香『ははは。好きな人が居ないんだからあげる人なんか居ないよー!』
DIE OUT
オレは耳を疑った
多少なりともオレにくれるのではないかという期待があったからだ
オレはショックのあまり
体重を3kgほど落とし
そのまま早退した
17歳のバレンタインデーは終わったんだ
次の日の帰り道
いつものように美香と2人で駅を目指した
なにげなく会話をする
美香『昨日さー、バレンタインデーだったじゃん?周りの女の子なんか気合いいれて手作り本命チョコにマン毛入れてるんだよ!うけるよね!』
オレ『そうですねー』
オレの返事に元気はない
美香『あとね、彩子いるじゃん?ずっと好きだったゆうじくんにチョコあげて告白したらOKもらったんだよ!すごくない!?あの彩子が!!』
オレ『そうですねー』
美香『うーん…』
重苦しい空気になる
この空気に耐えきれなくなったのか
美香が声をあげた
美香『なに?怒ってる?』
オレ『別に』
美香『なんか嫌なことあったの?生理?』
オレ『別に!』
美香『怒ってるじゃん!どーしたの?教えてよ!』
オレは我慢出来なくなって立ち止まり
話しはじめた
オレ『なんでわかんねーんだよ!バカじゃねえの!?』
美香『え?バカってバカンスのバカ?私がバカンス女だって言いたいの?』
オレ『違ぇーよ、バカンスは関係ねぇ!オレはただチョコ・・・欲しかっだすけ!』
美香『え…』
オレ『お前のアワビとチョコが欲しかっただすけ!』
美香『それって…』
オレ『だから!オレ、ずっと美香の事が好きだったんだすけ!!!』
言ってしまった
何故か青森だか秋田だかそっちの方の訛りで言ってしまった
怒りにまかせて告白してしまった
美香は何も答えない
気まずい空気
耐えきれなくなり
オレは歩き始めた
すると後ろから笑い声がする
美香『きゃははは!』
オレ『は?何笑ってんの?ブッ殺すけ!』
美香『きゃははは!だってー。』
オレ『だって何だすけ?』
美香『やっと言ってくれたんだもん。好きって。』
オレ『え?』
美香『だから!私もヴァンの事が好きなの。大好きなの!それと、昨日渡せなかったからさ。これ。ヴァン帰っちゃうんだもーん。』
美香はカバンの中からチョコ(マリファナの樹脂)を出した
奇跡だ
奇跡が起きたんだ
1日遅いバレンタインデー
オレは美香と付き合うことになったんだ
オレはなんだか急に恥ずかしくなり
早足で駅に向かった
オレ『いくぞ!』
美香『あはは!』
後ろから元気な美香の笑い声が聞こえる
そして美香は照れるオレの手を後ろに引っ張り
初めて話した時の言葉を口にした。
美香『あはは!ヴァン君?ヴァン君だよね?きゃはは!』
だからオレも照れながら言い返した
オレ『おお!美香ちゃんじゃん!こんな所で何やってるの?』
すると美香は答えた
美香『いや、美香じゃなくて香美だよ!』
オレ『え?』
香美『だから美香じゃねぇよ!誰だよ、それ!』
ヴァンは恥ずかしさのあまり拳を堅く握り
力一杯のグーパンを香美のテンプルに叩き込んだ
バチコーン
香美→美香って名前に変わるかも知れない
そんな祈りを込めたグーパンだった
そんな祈りがロマンスの神様に届いたのか
香美
↓
故・香美
と変わり
オレもまた
ヴァン
↓
ヴァン容疑者
に変わった