山本勇太と長いロープ

こんばんわ、ヴァンです。

 

 

 

山本勇太が持ってる長いロープは

 

少々極端に言えば卑猥である

 

別に女性の裸や男性器を連想させるわけではなく

 

ただ単純に卑猥と感じる

 

大袈裟な話が俺のDNAがそう言ってるんだと思う

 

 

 

山本勇太が何か話し掛けている

 

俺は急いで助手席に身を乗り出して窓を開けた

 

『あと10分程度なので待ってくれますか?』

 

取り分け忙しいわけでもない

 

『いいよ』

 

優しく返した

 

これがやっと口説き落とせそうな女のコとの待ち合わせ前だったら

 

このボロに鞭打ってでも車を進めただろう

 

 

 

さっきから目の前を通る女子高校生に値段を付ける

 

実際にその値段だったら本当に買うのか

 

そんなプレッシャーを掛けながら査定

 

自分のやってる行為が物凄く下品なのは重々承知だが

 

これ以上にどう暇を潰して待てばいいのか

 

その手段を知らない

 

 

 

"5万払ってもいい"

 

丁度そんな女が目の前を通った時

 

再び山本勇太がやってきた

 

また助手席の窓を開ける

 

『思った以上に時間が掛かりそうで・・・』

 

少し困った顔で言う

 

『どのくらい?』

 

怒り口調に聞こえないように丁寧に聞いたのに

 

『あと10分程度です』

 

と言われ

 

『あ、そう』

 

あえて不機嫌そうに答えて窓を閉めた

 

山本勇太は走って作業に戻る

 

 

 

さっきまで通ってた女は通らなくなった

 

普段は聞きたくもないFM79.5でもいいから何か暇を潰せる物が欲しかった

 

俺はハッと思って助手席の窓を開け叫んだ

 

こういうのは中途半端な大きさで言う方が恥ずかしいのを知ってる

 

『あのーちょっといいですか?』

 

山本勇太が振り向いて駆け寄る

 

『どうしました?』

 

『ラジオは持ってない?』

 

不思議そうに顔をしかめる

 

『実はラジオ壊れてて使えないんだ』

 

本来カーステレオがある場所にはガムテープ

 

山本勇太はこのボロを確かめるように見て

 

『わかりました』

 

俺はホッとした

 

自慢するわけじゃないがボーッと待つのだけは苦手

 

汗水垂らすような仕事をするか家で何もせずに過ごすか問われたら

 

俺は迷わずかぶりたくもない白いヘルメットをかぶるだろう

 

『自分の車に小型ラジオがあったと思うので』

 

そう言って振り返る山本勇太に慌てて聞いた

 

『その貴方の車は何処にあるの?』

 

『駅前の駐車場にあるので10分程度で戻ります』

 

俺は呆れた

 

呆れたあまりクラクションを鳴らした

 

山本勇太は肩を上げてビックリする

 

こんなボロでもクラクションだけは調子いい

 

面白がってもう1度クラクションを鳴らす

 

 

 

『それなら貴方の持ってるその長いロープを貸して下さい』

 

ふと我に返ったように言うと

 

山本勇太は腰に上手に巻いた長いロープを俺に渡し

 

得意そうに

 

『この長いロープ1つでどんな所にも行けるんです』

 

『ああ、そうだろうね』

 

知ったように言い返す

 

赤子を預けたかのように不安そうな山本勇太に聞く

 

『この長いロープは大事な物なの?』

 

意外にも少し考えた素振りで

 

『大切だと思います』

 

『だと思う?』

 

『ええ、確信はないですけど』

 

おかしな話だ

 

『まるでこの長いロープが自分でも大事かどうかわからないって聞こえるけど』

 

『ええ、そうです』

 

山本勇太は鼻の頭を黒く汚れた指で掻きながら言う

 

 

 

俺は山本勇太がわからなくなった

 

元々何1つわかってるわけではなかったが

 

これで思ってた山本勇太像が完全に壊れた

 

 

 

何故か不愉快になって押し付けるように長いロープを返した

 

山本勇太は申し訳なさそうに作業に戻った

 

 

 

最初に感じてた"卑猥さ"は長いロープでなく

 

サイドブレーキに感じるようになった

 

これは男性器を連想させるからだろう

 

俺は妙に納得して山本勇太の作業が終わるのを待った

オチのない話(M15)

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